大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1093号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

本判決は、昭和四九年一二月末日に期間の満了した借地契約の法定更新の問題に関し、借地権者の土地使用継続に対し異議を述べた土地所有者が、昭和五〇年一〇月に土地明渡を求めて本訴を提起するとともに、予備的に正当事由の補完事由として一四〇〇万円の立退料の支払を申し出た事案について、右立退料の申出が、遡つて期間満了時における異議の正当事由の補完要素たりうるものとしたものである。

【判旨】

被控訴人は、昭和五〇年一〇月の本訴提起時(控訴人に対する訴状の送達日は同年一一月一五日)から、予備的に正当事由を補完するものとして、本件建物収去・土地明渡と引換えに立退料として金一四〇〇万円を控訴人に支払う旨の申出をしていることは、記録上明らかである。

一般に、賃貸人が更新を阻止するために異議の申出をして土地の明渡を求めるに際し、仮に異議について正当事由の存在が客観的に認められないとすればこれを補完するために立退料を提供する意思を有することは、多くの場合に予想されるところであり、本件の訴状をもつてなされた被控訴人の申出も、金一四〇〇万円の程度で右の意思があることを明示したものというべく、右申出の時期からいつて、これを斟酌して正当事由の判断をしても、それによつて賃借人の法的安定性を著しく害することになるとは認められないから、本件において被控訴人の異議につき正当事由が無条件では認められない場合でも、右申出の金額ないしこれと著しく異ならず被控訴人の予測範囲を超えることはないものと認められる額の限度(本件では、金一九五三万円の支払と引換えに土地の明渡を命じた原判決に対して被控訴人が不服を申し立てていないことにより、右金額がその予測範囲を超えないことが裏付けられている。)で立退料を提供することにより、正当事由が補完されうるか否かが検討されなければならない。

六原判決理由「三」を「五」と改め、そのうち原判決一九枚目表七行目の「窺えないこと、」の次に、「にもかかわらず、控訴人は被控訴人の斡旋した代替地を些少な理由で断わり、自ら代替地を探すための真剣な努力をしているようには見えず、問題の解決に対する誠意を遡つて疑わせる態度を示していること、」を加え、同一〇行目の「可能である」以下、同裏二行目の「考え難い。)」までを、「全く不可能であるとは考えられないこと(ただし、前掲乙第一二号証から窺われる右建物の狭さと地理的条件からみて、或る程度の商品の置場及び主として電話による注文に応ずる事務所としてより以上の機能は期待しえず、本件建物に完全に代替しうるものではない。)」と改め、同二〇枚目裏四行目末尾に、「乙第一四号証は、昭和五五年九月末時点における本件土地の借地権価格に関するものであるから、右判断の妨げとはならない。のみならず、如上の判示は、正当事由を補完すべき立退料の相当額を判断する基準として、証拠関係から認められる昭和五二年四月一日時点での借地権価格を考慮したまでであり、本来、正当事由を補完すべきものとしての立退料が一定時点における借地権価格と厳密に合致しなくてはならない必然性があるわけではなく、如上判示の諸事情を総合すれば、右金額の立退料の提供をもつて、本件における被控訴人の異議についての正当事由を補完するに足るとする判断は到底動かない。」と加える。

(杉田洋一 横山長 浅野正樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!